*観音様大銀杏*

KANNONSAMA OICHO

「おい、追っかけて拾おうよ」 一人がいうと即座に賛成して、子供たちは空を見上げながら走り出した。 風船は微風のまにまに、お堂横の原っぱへと、斜めに下降していく。ワーッ、ワーッと囃しながら、子供たちが走る。 この無邪気な騒ぎに、参詣の群衆は、つい立ち止まって見物する。みるみるその人数がふえて行く。中には、子供のあとを追って走りだすおとなもある。 間もなく風船は、広っぱの大銀杏の枝に、頭をぶつけながら、美しい五色の鳥のように、しずしずと、子供たちの手がウジャウジャと群らがる中へ降りてきた。(中略) 抱きしめていた子供は、やっとそれに気がついた。グニャグニャした、冷たい手ざわりの気味わるさに、びっくりして、それを投げ出すと、思わずうしろに跳びのいた。 それは足の形をした、青白いものであった。五本の指がキューッと曲がって、苦悶の表情を示しているのも、無気味であった。

「盲獣」 昭和6年2月〜7年3月「朝日」(第3巻2号〜第4巻3号)


浅草観音様の境内にはたくさんの銀杏の古木が立っています。
なかには樹齢600年といわれるものもあり、堂々としたたたずまいをみせています。
関東大震災の時に、四面を火に囲まれながら観音様と三社様だけが残ったのは、これらの銀杏達が水をはきだして守ったのだ。と言い伝えられています。
また、九代目団十郎の銅像も、「暫」の格好で千束町方面からの炎をとどめるのに一役買ったそうです。
とにかく、一帯は民間信仰の総本山のようなところで、仏様も神様もたくさんいらっしゃいます。
このおおらかで優しいところが、浅草の最大の魅力でパワーの源だと思います。




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