*二天門*

NITEN MON

「いや、そうとはかぎらんよ。東京じゅうでこの公園ほど、犯罪者にとって究竟の隠れ場所はないともいえるんだ。ここは都会のジャングルだよ。和洋あらゆる種類の建物がごたごたと建ち並んでいる。おびただしい露店の群れがある。いたるところに抜け裏がある。そのうえ、ひっきりなしの大群集だ。それらがすべて、犯人を隠す叢林にも等しいのだぜ。もしあいつがこの公園を隠れ家にえらんだとすれば、その着想に敬服しないわけにはいかん。人間豹と都会のジャングル、実にうまい取り合わせじゃないか」明智は感嘆するようにいうのだ。(中略)むろん、興行物ははねてしまい、夜店商人たちもほとんど帰った後で、宵の明るさにぎやかさはあとかたもなかったけれど、夜ふけの参詣者、お百度参りなどの黒い人影がちらほらして、二天門をはいったところには、これからが商売の易者のテント張りが、ぽつんと取り残されるように立っていた。

「人間豹」 昭和9年5月〜10年5月 「講談倶楽部」(第24巻5号〜26巻5号)


二天門は観音様の本堂に向かって右側、東に向いて開いている門で、国の重要文化財に指定されています。元和四年(1618)に建てられた切妻造りの八脚門というものです。いかにもコンクリートの雷門や仁王門と違い古く優美なたたずまいは、とりわけ大切な浅草の宝物という感じです。ですから火事で焼失したりしないよう、すぐ隣に消防所があります。
「人間豹」は四つ足で歩く獣人恩田の話でほとんどオカルトかSFの様な設定ですが、明智の妻である文代さんがこれまた熊のぬいぐるみを着たまま人間豹に犯されそうになるなど、乱歩趣味のエログロが満載、私は乱歩の最高傑作のひとつと思っています。
このホームページではすでに、「仁王門」の大提灯の上から恩田が顔をのぞかせるシーンを紹介していますが、「人間豹」にはこの他にも忘れられないような名シーンがたくさんあります。だれか映像化しないものかしら。とにかくお奨めぜひご一読あれ。




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