*浅草公園*

ASAKUSA KOUEN

「奇蹟ってなんです」
相手がストリート・ボーイではないとわかって、安心したけれど、彼の話すことがまるで理解できなかった。しかし、気ちがいではなさそうだ。
「奇蹟をお尋ねなさるのですか。じゃあ、あなたは御入用がないのです。ほんとうに欲しいお方はそんなふうにはおしゃいませんから。さようなら」
青年はフラフラと、又元の浮浪者共のあいだに戻って行った。浅草のような盛り場には、時々こんな不思議がある。浅草は東京という都会の皮膚にひらいた毒々しい腫物の花だからだ。そこには常態でないすべてのもの、ウジャウジャとたかっている。

「猟奇の果」 昭和5年1〜12月「文芸倶楽部」第36巻1〜12号


これは瓢箪池に面した藤棚の下で、主人公の猟奇者青木愛之助が、「奇跡のブローカー」と称する不思議な美少年に話し掛けられる場面です。このくだりで乱歩は、奥山から見世物小屋、木馬館、そして花やしきといった浅草公園が醸し出す怪しい魅力を伝えています。ところでこの写真は現在の初音小路の藤棚です。位置的にはこのあたりが、作中の瓢箪池の藤棚ではないでしょうか。小さな飲み屋やパチンコの景品交換所などがひっそりと並んでいます。5年くらい前にはまだ流しのおじいさんが白いブレザーを着て、店から店へとギターをかかえて渡り歩いていました。




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